終末のフール

2008年11月13日 読書
伊坂幸太郎流終末の過ごし方。

この本で扱われる終末は病気とかではなくて小惑星が地球に衝突することが分かりましたというまさにSF的な終末のお話。
じゃあパニック全開人が人を喰う血みどろな内容かもしくはアルマゲドンみたいな立ち向かう人々を描いているのかというとそうではなく、この辺りが伊坂幸太郎の設定の妙で、小惑星が到達するのは発表から8年後で舞台となるのは到達まで残り3年の時点。
その5年間の間に人々は既にパニックしまくった末に絶望したり自棄になったりした人々はもう死ぬか、あるいは疲れ果てて今ある日常をとりあえず行きようという小康状態を描いている。
これが残り数ヶ月とかもしくは数日とかだったら再び暴発する可能性が高いし、発表直後だったらやっぱりパニックになるだろうし、半分をちょっと過ぎたあたりを生きる人々、というのがいい。
そんな背景を舞台に仙台のヒルズタウンに住むマンションの住人8組が織りなす群像劇。

モダンタイムスみたいな重厚な(本の厚さも重厚な)長編もいいけど、同じ舞台の住人が主人公の8つの短編が微妙に交錯しつつ、スパッと切れるような感じはないけどどこかしんみりとした味わいもいいなあと思うのです。
終末だから切羽詰まった感があるかというと設定のおかげでところどころにみられるだけで、むしろ目の前の小さな、けれど大事なものを抱えて生きるということが逆に際だってます。
いわゆる難病ものみたいにさあ泣けっていうような展開でもないし。
ほんとうに静かに染みいるような雰囲気。
けれど内に力強いものもあるんだぞ、みたいな。

各話ごとに○○の○ールとかならず韻を踏んでいるあたりも洒落っ気があるけど天体のヨールは反則だろうと思った。なんでヨールなのかは読めば分かるんだけれどそりゃないでしょと。
まぁこういうバカバカしさもいいんですけどね、自分みたいなファンにとっては。

一応終末ものなのに読後感がさわやかでちょっと笑えるまったり気味の話が多いのも自分には良かったです。

この本の中で印象に残ってる台詞が「明日死ぬとしたら、生き方が変わるんですか?」「あなたの今の生き方は、どれくらい生きるつもりの生き方なんですか?」というキックボクサーの台詞で、終末だろうが今目の前にある日常を静かに、けれど必死に大切に生きている人々を象徴しているような気がします。

終末ものは数あれど、こういう描き方もあるんだなぁと思いました。

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