ジェネラル・ルージュの凱旋[宝島社文庫] (宝島社文庫)
2009年3月4日 読書
今週末に映画公開を控えた田口・白鳥コンビのバチスタシリーズ第3作。
公開前に何とか読み終えました。
今回非常に内容が濃くて感想を書くのに苦労しました。
1作目の「チームバチスタの栄光」はこのミス大賞受賞作とあって、医療過誤問題を交えたりキャラが非常に魅力的というポイントはあるも、あくまで事件が発生してその犯人探しを基本としたミステリ小説でした。
2作目の「ナイチンゲールの沈黙」はミステリの体裁は整えているも犯人探しを基本としたところからは少々外れていき、むしろ医療現場を舞台にしたエンターテインメントという方向にシフトしていこうという印象がありました。
ただ、この作品の時点ではあくまでミステリの枠に収まろうとした物語進行だったため最終的にはミステリお決まりの「事件の真相」に迫る内容でした。
正直、そりゃねーよと言う点が多く、世間的にも評判はイマイチ。
そして今回の3作目「ジェネラル・ルージュの凱旋」
今回はついに、いわゆる犯人探しミステリという枠からほとんど外れます。
物語の核となるのは救急医療を巡る切実な問題。
慢性的な赤字を生み出す救急医療を巡る、採算性という問題と出来る限りの人を救うという相反する要素に、本書は鋭く切り込んでいく。
舞台は「ナイチンゲールの沈黙」と同時時間進行で、「ナイチンゲールの沈黙」で起こっていた出来事の裏で、全く別の事態が進行していたという内容で、所々リンクしている部分があってにやりとさせられます。
始まりは救命救急センター部長と特定業者の癒着を告発する文書が田口の元に届けられる。この告発文の内容が事実なのか、誰が出したのかという謎から物語は動き始めるのだけれど、この問題は舞台を動かす装置以上のものではない扱いです。
この物語の中心になるのは救命救急センター部長、ジェネラルルージュ(血まみれ将軍)の異名を持つ将軍・速水晃一。
田口の同窓である速水は超一流といっていいほどの救命救急医師で、それと同時に限界を広げてまで救急患者を受け入れる、病院にとっては金食い虫でもあった。
そんな赤字採算事業を展開する中では速水の夢であるドクターヘリの導入など余計莫大な予算がかかり夢のまた夢。
そんな中速水に癒着疑惑が浮上し、田口は調査に乗り出す羽目になるが……
物語を進めるのは前述したとおり告発文書の謎と速水の癒着疑惑で、そういう意味ではミステリですが、核となるのは医療現場の実情と採算性や倫理問題といったものとの乖離という、非常に重い問題提起です。
物語の中盤から後半では非常に熱いディスカッションが展開され、将軍・速水の啖呵が格好良すぎる上に、ジェネラルルージュのあだ名が付く事件となった「伝説」など速水のキャラクターがとにかく際だっています。
現場で人の命を救えるだけ救うことに突出した天才で、それ故に現場を預かるものとしての純粋な言葉の刃が経営側に突き刺さる、けれど速水はあまりにも現場というものに純粋すぎるのも事実。
人を救うことと病院の経営、このことについて非常に考えさせられます。
今回もロジカルモンスターこと白鳥圭輔は相変わらずの破壊神ぶりを要所で発揮して、泥沼倫理とまでよばれるエシックス・コミティでの傍若無人ぶりは見事なんですが、今回は余りにも将軍・速水が良すぎたせいか影が微妙に薄いです。
繰り返しまくりますが、行動の是非はともあれ速水が本当に格好いいんですよ。
病院内で暴君すれすれの天上天下唯我独尊っぷりを発揮しながら運ばれてくる患者に対しては非常に真摯にかつ最大限の手を尽くし、糾弾されても揺らぐことなく真っ直ぐ自分の道を貫き通し、大事故では病院内地位なんざくそくらえと陣頭指揮を執り病院全体をフルスクランブルで稼働させ縦横無尽に活躍する姿は、もう格好いいとしか言えない。
解説で大森望が書いてたけど犯人探し系のミステリから脱皮して殺人だとかそういうことが起こらなくても非常に読ませてくれる、社会派メディカルエンターテインメントとして非常に優れた作品です。
扱う問題は硬派なのに、登場するキャラがとにかく際だっていて退屈させないのが素晴らしい。
正直内容が非常に濃いんで、もう一回読み直さないとならないなぁと思ってます。
一回読んだだけじゃこの作品をしっかり味わえてないと思ったので。
もっとも単純なエンターテインメントとしての面白さはバチスタの方が上だと思います。
この作品は医療問題に深く切り込んでるのがミソ。
深く考えずに娯楽作品として、医療場面のリアルさとかミステリとしての謎の解明とか白鳥の暴れっぷりを楽しむならバチスタに軍配があがりますね。
公開前に何とか読み終えました。
今回非常に内容が濃くて感想を書くのに苦労しました。
1作目の「チームバチスタの栄光」はこのミス大賞受賞作とあって、医療過誤問題を交えたりキャラが非常に魅力的というポイントはあるも、あくまで事件が発生してその犯人探しを基本としたミステリ小説でした。
2作目の「ナイチンゲールの沈黙」はミステリの体裁は整えているも犯人探しを基本としたところからは少々外れていき、むしろ医療現場を舞台にしたエンターテインメントという方向にシフトしていこうという印象がありました。
ただ、この作品の時点ではあくまでミステリの枠に収まろうとした物語進行だったため最終的にはミステリお決まりの「事件の真相」に迫る内容でした。
正直、そりゃねーよと言う点が多く、世間的にも評判はイマイチ。
そして今回の3作目「ジェネラル・ルージュの凱旋」
今回はついに、いわゆる犯人探しミステリという枠からほとんど外れます。
物語の核となるのは救急医療を巡る切実な問題。
慢性的な赤字を生み出す救急医療を巡る、採算性という問題と出来る限りの人を救うという相反する要素に、本書は鋭く切り込んでいく。
舞台は「ナイチンゲールの沈黙」と同時時間進行で、「ナイチンゲールの沈黙」で起こっていた出来事の裏で、全く別の事態が進行していたという内容で、所々リンクしている部分があってにやりとさせられます。
始まりは救命救急センター部長と特定業者の癒着を告発する文書が田口の元に届けられる。この告発文の内容が事実なのか、誰が出したのかという謎から物語は動き始めるのだけれど、この問題は舞台を動かす装置以上のものではない扱いです。
この物語の中心になるのは救命救急センター部長、ジェネラルルージュ(血まみれ将軍)の異名を持つ将軍・速水晃一。
田口の同窓である速水は超一流といっていいほどの救命救急医師で、それと同時に限界を広げてまで救急患者を受け入れる、病院にとっては金食い虫でもあった。
そんな赤字採算事業を展開する中では速水の夢であるドクターヘリの導入など余計莫大な予算がかかり夢のまた夢。
そんな中速水に癒着疑惑が浮上し、田口は調査に乗り出す羽目になるが……
物語を進めるのは前述したとおり告発文書の謎と速水の癒着疑惑で、そういう意味ではミステリですが、核となるのは医療現場の実情と採算性や倫理問題といったものとの乖離という、非常に重い問題提起です。
物語の中盤から後半では非常に熱いディスカッションが展開され、将軍・速水の啖呵が格好良すぎる上に、ジェネラルルージュのあだ名が付く事件となった「伝説」など速水のキャラクターがとにかく際だっています。
現場で人の命を救えるだけ救うことに突出した天才で、それ故に現場を預かるものとしての純粋な言葉の刃が経営側に突き刺さる、けれど速水はあまりにも現場というものに純粋すぎるのも事実。
人を救うことと病院の経営、このことについて非常に考えさせられます。
今回もロジカルモンスターこと白鳥圭輔は相変わらずの破壊神ぶりを要所で発揮して、泥沼倫理とまでよばれるエシックス・コミティでの傍若無人ぶりは見事なんですが、今回は余りにも将軍・速水が良すぎたせいか影が微妙に薄いです。
繰り返しまくりますが、行動の是非はともあれ速水が本当に格好いいんですよ。
病院内で暴君すれすれの天上天下唯我独尊っぷりを発揮しながら運ばれてくる患者に対しては非常に真摯にかつ最大限の手を尽くし、糾弾されても揺らぐことなく真っ直ぐ自分の道を貫き通し、大事故では病院内地位なんざくそくらえと陣頭指揮を執り病院全体をフルスクランブルで稼働させ縦横無尽に活躍する姿は、もう格好いいとしか言えない。
解説で大森望が書いてたけど犯人探し系のミステリから脱皮して殺人だとかそういうことが起こらなくても非常に読ませてくれる、社会派メディカルエンターテインメントとして非常に優れた作品です。
扱う問題は硬派なのに、登場するキャラがとにかく際だっていて退屈させないのが素晴らしい。
正直内容が非常に濃いんで、もう一回読み直さないとならないなぁと思ってます。
一回読んだだけじゃこの作品をしっかり味わえてないと思ったので。
もっとも単純なエンターテインメントとしての面白さはバチスタの方が上だと思います。
この作品は医療問題に深く切り込んでるのがミソ。
深く考えずに娯楽作品として、医療場面のリアルさとかミステリとしての謎の解明とか白鳥の暴れっぷりを楽しむならバチスタに軍配があがりますね。
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